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高松高等裁判所 昭和39年(ラ)22号 決定 1965年4月19日

抗告人 藤山登(仮名) 外一名

相手方 藤山利男(仮名) 外二名

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一、抗告人等はそれぞれ原審判を取消しさらに相当なる裁判を求めるものと解せられるところ、その各抗告の理由は、別紙(1)および(2)のとおりである。

二、抗告人藤山登の抗告理由(別紙(1))について。

(一)  遺産の範囲について。○○○市字○○甲一、〇六八番地の二宅期二三八坪(原審判添付第一表遺産目録9)が登記簿上亡藤山茂男と抗告人藤山登の共有名義となつていること、ならびに原審における検証および相手方藤山利男、同藤山勝男各審問(昭和三八年一〇月三一日)の結果を綜合すると、右宅地は被相続人藤山茂男と抗告人藤山登の共有であると認めるのが相当であつて、原審における抗告人藤山登審問の結果のうちこれに反する部分は前記資料と対比して信用しがたい。

(二)  生前贈与について。○○○市字○○甲一、〇六八番地の二宅地二三八坪のうち北側六八坪の借地権および同所同番地木造瓦葺平家建職場建坪七坪(原審判添付第二表生前贈与目録22と23)は、原審における検証および相手方藤山利男、同藤山勝男各審問(昭和三八年九月二六日と同年一〇月三一日)の結果によると、被相続人藤山茂男から抗告人藤山登に対する生前贈与であることが認められ、右認定に反する抗告人藤山登の審問(昭和三八年九月二六日および同年一〇月三一日)の結果はこれを信用できない。

なお相手方野村民子に対する生前贈与の額については、同人その他本件当事者全員の審問(昭和三八年一〇月三一日)の結果によると、本件相続の開始した昭和三二年当時の価格で金一〇万円であることが認められ、右認定に反する資料はない。

(三)  遺産の評価について。○○○市甲一、〇七五番地および同市甲一、〇七六番地の宅地六六坪三九の賃借権(原審判添付第一表遺産目録8)の価格については、原審における鑑定人横山圓市、同鈴木弥吉の各鑑定の結果によれば、本件相続が開始した昭和三二年当時坪当り金一万二、〇〇〇円、原審判当時坪当り金二万四、〇〇〇円であることが認められ、同市甲一、〇六四番地の宅地の賃借権(同目録3)の価格とは、その場所も異なるし(相手方野村民子が昭和三八年二月二〇日提出した書類中の地図参照)、その評価が均衡を失していると認められる資料はない。

(四)  および(五)の各訂正申立について。所論はいずれにせよ原審判に何等影響を及ぼすものではなく、判断を示す必要をみない。

(六)  被相続人の財産増加に対する相続人の協力について。被相続人の財産の増加について相続人の協力があつた場合、その協力によつて増加した部分は、理論的に相続財産に属しないというべきであろうが、実際上はその協力の程度、協力により増加した部分を確定し評価することが甚だ困難であるので、右協力による増加部分を明確に特定できる場合は格別、そうでない限り相続財産の範囲を確定するに当つては、相続人の協力を斟酌することなく、遺産を分割する際に考慮される一切の事情(民法第九〇六条)の中で相続人の協力の有無、程度を斟酌するに止めるのが相当である。本件においても、各相続人の協力の有無程度に関する抗告人藤山登の主張事実はこれを裏付けるに足る資料もなく、相続人の協力による財産増加部分を確定し難いのみならず、その主張自体によつても、その協力の程度は相続財産の価格に比し僅少であり(抗告人主張のように戦前の金額を現在の貨幣価格に換算することはできない)、また同抗告人が被相続人藤山茂男の財産増加に協力したことを理由に、○○○市甲一、〇六四番地木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一六坪外二階一三坪(家屋番号同所二九一三番、原審判添付第一表遺産目録4)を同抗告人の所有とせられたいと希望した点が原審判において認容されていることを併せ考えると、原審判が、亡茂男の相続財産の範囲の確定に当つて、相続人が相続財産の増加に寄与した点を考慮に容れなかつたことを以て、必ずしも違法とするにはあたらない。

(七)  動産について。本件被相続人藤山茂男、同藤山イシがその死亡当時家具什器衣類等の財産を所有していたことは、差戻前の当裁判所の照会に対する本件各当事者の回答によつても明らかであるが、右各回答書および本件各当事者の陳述(昭和三七年五月一五日と昭和三八年一〇月三一日)によると、それらの動産類はいずれも経済的価値に乏しく、これらを相続財産の範囲に加えないことについて異存がないことが認められる。このように本来は相続財産に属する動産類であつても、その価値が乏しく他の相続財産に比し僅少であつて、当事者もそれを相続財産に加えないことに異存がなかつた場合には、それらを相続財産の範囲に含ませないで遺産分割をしても、必ずしも違法ではないというべきである。なお抗告人主張の牛一頭については、抗告人藤山勝男の前記回答書によると、遺産に属するものとは認めがたく、また現金(貸金を含む)については、そのような遺産があつたことを認めるに足る資料がない。

三、抗告人藤山勝男の抗告理由(別紙(2))について。

第一、異議申立の理由という部分について。抗告人の主張は抽象的であつて、後に続く抗告理由の前がきともみらるが、記録を調査しても、原審判に所論のような違法の点はみあたらない。

第二、生前贈与目録の一部価額の訂正について。所論のうち1、2および8において主張する生前贈与の評価が妥当でないとの点は、原審が採用する鑑定人横山圓市、同鈴木弥吉の各鑑定の結果によれば、原審判添付第二表生前贈与目録記載の各評価額を認めることができ、これに反する鑑定人飯尾多次郎、同日野伴次の各鑑定の結果はいずれも採用しがたい。所論のうち5、6に主張する点は、原審判においても、○○○○市○○甲一、〇六四番地の宅地の借地権および底権(同目録18、19)は、いずれも坪当り単価が金三万五、〇〇〇円と評価されていて、同所同番地の一の宅地の借地権(同目録16)の坪当り単価と同額であることが明らかであつて、ただ両地とも二一坪五合二勺づつ道路敷地となつたため(昭和三九年二月二五日の審問参照)、計算上一坪分の平均価額が異なることになつたにすぎない。また所論のうち7に主張する点は、前記二の(二)に判示したとおり、原審判の評価が相当である。

所論のうち3と4に主張する点について。○○○市○○○甲六三〇番地の二田五畝、同市○○○○甲六六四番地田一反一畝四歩および同市○○甲六九二番地田四畝二一歩の各賃借権が、被相続人藤山茂男から抗告人藤山勝男に生前贈与されたが、後にそれら農地が国に買収されて同抗告人に売渡されたこと、同市○○○甲五八〇番地田一反二畝六歩、同市○○○甲六一五番地田一反一二歩および同市○○○甲一、一〇〇番地の二畑二畝二六歩の各賃借権が、被相続人藤山茂男から相手方藤山利男に贈与されたが、後にそれから敷地が国に買収されて同相手方に売渡されたことは、いずれも記録上明らかであるが、それら農地の売渡は、小作地の売渡であつて、その対価も小作権の価額を除外した地主の収益権の価額であつたのであるから、その売渡によつて賃借権(小作権)は消滅しても、その利益は依然所有権に包含されて存続しているものと解するのが相当である。したがつてそれら農地賃借権は、それぞれ抗告人藤山勝男、相手方藤山利男が受けた生前贈与の中に加えるべきであり、原審判の認定判断が違法または不相当であるとはいえない。

第二遺産のうち一部の価額訂正について。○○○○市甲一、〇六四番地木造瓦葺二階建居宅建坪三四坪外二階二四坪(原審判添付第一表遺産目録2)および同所同番地宅地四六坪二合の賃借権(同目録3)の評価については、原審における鑑定人横山圓市、同鈴木弥吉の鑑定の結果によつて同目録記載のとおりの価額であることが認められ、抗告人主張のように他と類比すべき根拠は見当らない。

○○○市○○中一、〇六八番地の二宅地二三八坪の共有権に関する所論が採用できないことについては、前記二の(一)説示のとおりである。なお原審は、右土地を抗告人両名と相手方藤山利男、同藤山行男との共有とする審判をしているけれども、将来共有者は共有物の分割を請求しうる途があるから、原審判に所論のような不都合があるとはいえない。

四、以上説示のとおり、抗告人等の主張はいずれも採用しがたく、その他記録を調査するも、原審判は相当であつて、本件各抗告は理由がない。(原審判書理由第5のうち一五行目に1/3とあるは、2/15の誤記と認める。

よつて家事審判規則第一八条、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第二八四条を適用して、本件各抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人らをして負担させるのを相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 水上東作 裁判官 山本茂)

抗告理由 省略

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